奨学生の声

Voice

2021年度 海外留学支援奨学生 小口英克さん

国立台湾大学/台湾
ボルドー大学(Université de Bordeaux)/フランス

私は筑波大学大学院の国際連携食料健康科学専攻に所属している。この専攻はジョイントディグリーと呼ばれ、筑波大学の他に、海外大学院の修士号を手に入れることができる。そのためフランスと台湾にそれぞれ6カ月間の研究留学が義務付けられている。海外大学院での期間は、熾烈を極めたことは至極当然のこととして、日本人としての文化を持つ私が気付いた点が数多くあった。それらを純粋に書き記していこうと思う。

フランス・ボルドー:美しい矛盾点

私がフランスで生活していた時、一つの矛盾点を見つけてしまった。それは精巧さとおおざっぱさの共存である。私が留学していた都市はボルドーで、月の港とよばれ市街地全体が世界遺産に指定されている。私はフランスの各都市、いくつかのヨーロッパの都市も訪れたことがあるが、ボルドーの歴史的な建造物から成る町並みは別格に美しい。町全体が伝統的な石造りの建物であり、道すがら時折姿を現すカセドラルや凱旋門の精巧・繊細さは群を抜いている。しかし、ボルドーに住むフランス人はどうだろうか。私の第一印象は、良く言えば楽観的で表現豊かで、悪く言えば気分屋でおおざっぱだ。私はこのボルドーの精巧さとおおざっぱさの共存が本当にわからなかった。しかしボルドーで時間を過ごすにつれて少しずつ掴めてきた。実は深い議論をしたいからおおざっぱのように見えてしまっていたり、素直に表現する代わりに相手の素直さも広く受け入れたりと、日本とは別ベクトルの丁寧さ・繊細さに気付くことができ、疑問点がすんなりと腑に落ちた。留学初めにはあんなに苦労したのに、日本帰国後にはボルドーの何とも言えないあの雰囲気が恋しくなってしまったほどだ。

台湾・台北:能動的な灰色

台湾に住んで気付いたことは、表面上では日本ととても近いが、中身は大きく違うことだ。台湾には多くの日本に所縁のあるものがあり、それは古代台湾の鄭成功、第二次世界大戦以前、そして現在で街中に見かけるスシローなどと多岐にわたる。台北の街を歩いていると日本ではないかと錯覚することもある。しかし、時間をかけてかみ砕いていくと違った台湾の深みを感じることができる。それは白黒つけないというメンタリティだ。私が台湾で留学していた2022年半ばは、中国と台湾での関係に緊張が走った時でもあった。台湾を取り囲んで軍事演習が行われた。その時、私は生物研究の企業で2ヵ月のインターンシップを行っていた。しかし、演習の最中、職場ではスタッフ一同、淡々と仕事を行っている。私は思い切って聞いてみた。「今、軍事演習が行われているようだけど大丈夫なのか。」帰ってきた返事は「大丈夫、問題ない。」あっさりとそして凛とした答えだった。しかし1㎜だけ表情に不安が見え隠れしていることを私は見逃さなかった。普通であれば頭がいっぱいになってしまうかもしれないが、あえて考えないという選択肢を取っているようだった。このような選ばないという方法を人々が取っていることを台湾では多く目にした。考えないということは受動で行われるだけではなく能動でも行うことができる、常々心配性である私は人生に役に立つ1ピースを手に入れることができたと思う。

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