奨学生の声

Voice

2021年度 海外留学支援奨学生 福地加菜さん

ポルト大学(Universidade do Porto)/ポルトガル
ポルトガルについて

世界遺産であるベレンの塔

私が留学したのは、ユーラシア大陸最西端の国であるポルトガルです。大西洋に面した豊かな自然と新鮮な海鮮料理、穏やかでマイペースな国民性に触れながら半年間生活を送りました。それまで留学経験が全く無かったため、始めの頃こそ慣れない異国の地での生活に戸惑うことが多々ありましたが、徐々に楽しさを見出せるようになり、帰国を意識する時期には、ポルトガルという国にとてつもない愛着が湧いていることに気付きました。自分の環境適応力が少しは向上したのではないかと思われます。

ポルトという街について

私は、ポルトガル第2の都市と言われるポルトという街にあるポルト大学文学部に通いました。人種の多様性という観点から首都のリスボンと比較すると、リスボンよりも非ヨーロッパ圏の人口の割合はやや低いと感じましたが、その分、少数派のアジア人としてのアイデンティティは特別になったように思います。おもしろいのは、ポルトはあくまで第2の都市であるものの、ポルトに住んでいる人たちはみな、リスボンよりポルトの方がずっと魅力的だと主張するのです。たしかにポルトは、街の景観が美しく、親切で人懐っこい人々の雰囲気が居心地の良い街でした。そのような街で半年過ごすことができたのはかけがえのない経験だと感じています。

ポルトの街並み

異文化コミュニケーションに関する授業

大学での勉強は決して簡単なものではなかったですが、その分得るものもたくさんあったと感じています。

最も影響を受けた授業は、異文化コミュニケーションを入門的に学ぶ授業です。様々なテーマを通してディスカッションをする時間が多くありました。クラスの留学生の割合も高かったことが大きな特徴で、ヨーロッパ諸国のみならず、南米やアフリカ、アジアの多様な地域からやってきた学生たちが一つの教室で、ある一つのテーマについて話し合うという時間はとても刺激的でした。周りは積極的に自分の意見を述べたりアイディアを出したりする中、語彙力の乏しい私は初めのころ、周囲の会話を理解することに必死になったり、話し手の意見に肯定するだけになったりと、自分から新たな意見や情報を付け加えてさらに議論を発展させることができずにいました。ターニングポイントとなったのは、授業の中で、「異なるルーツや文化を背景に持つ場合、思考や発想にも違いがある」ということを体感した時です。それまでの私は、自分の発言が適切なものでなかったらどうしようという不安から、発言を恐れている事に気づきました。しかし、文化が異なれば、考えることも異なるのは当然です。お互い歩み寄ったり、理解の不一致を避けたりするためには、自分の感じたことを共有することはまず必要なことだということを学びました。その気づきを得てから、まず自分の意見を周囲に共有するようにしたり、新たな意見に対しても自分なりの考えを示すことに注力したりと努力しました。しっかりと自分の意見を言い表すことが、議論が深まる要素となることを体感し、議論におもしろさを感じることができるようになりました。また語彙力に自信がなくても、身振り手振りや表情など相手に伝えるための工夫を駆使したことで、理解しやすい話し方も身につけることができました。

災害の授業

地理学の分野である、自然災害のリスク分析と管理に関する授業も履修しました。自然災害の発生リスクに焦点を当て、災害を未然に防ぐために必要な観点を概念的に学びました。

日本の災害の代表的なものとして地震が挙げられますが、ポルトガルでも、18世紀に発生したリスボン大地震という大規模な地震が甚大な被害を及ぼしたそうです。その地震以降、「災害は自然現象」という認識がなされるようになります。つまり、人間は自然が引き起こす災害の被害者であり、科学技術により自然はコントロールされる必要があるという考えです。しかし、70年代に入りその概念は大きな転換を遂げます。「災害は社会現象」であるということです。つまり、災害を理解し対策が進んだ社会の組織構造であれば、災害を減らすことができるという考えです。社会に重点を置き、災害リスクの回避について考えることは、今の日本社会にも求められていることであり、非常に興味深く勉強することができました。グループワークで日本の地震の状況を説明すると、地震に馴染みのないヨーロッパの学生たちはとても驚いていました。現在のポルトガルで主な災害は山火事で、毎年、特に夏に深刻な被害が出ているようです。

旅行中の気づき

留学期間中、新型コロナウイルスによる行動制限が徐々に緩和されていったため、休暇を利用して国内外に旅行に行くこともありました。歴史的遺産を訪れたり芸術作品を鑑賞したりすることは、 世界史の勉強に励んでいた高校生の頃から夢見ていたので、留学期間を利用してその夢を叶えられたことが本当に嬉しかったです。実際に自分の目で見ると、重厚な歴史がまざまざと感じられたり、イメージしていたものとは違う新たな発見があったりと、自分の持っている感性を最大限に研ぎ澄ませながら楽しむことができました。

また、旅先での人との出会いにも楽しさがありました。ベルギーで一人旅をしていた時に、バスの遅延がきっかけで、同年代のインドネシアの女性と仲良くなり、今でも連絡を取り合っています。世界の見知らぬ土地で新たな出会いができたことは喜ばしいことだと感じました。

その一方で、他国の様々な文化に触れたことで、日本の文化や伝統の魅力を再認識できたことも事実です。世界に目を向けることのおもしろさは当然ありますが、日本文化の唯一性にも価値を見出すことも重要だと考えるようになりました。

終わりに

最後の夜に美味しいポルトガル料理を
ごちそうになったときの写真(右端本人)

留学の始めの頃は、新しい生活環境に身を置くことの難しさを感じていましたが、毎日挑戦と失敗を重ねることで、結果的に自らの成長に繋がったと感じています。言語は違っても、相手の価値観を理解したいという気持ちがあればコミュニケーションは取れます。挑戦する上で大切なのは、技術ではなくその姿勢であり、意欲があれば自ずと責任感や行動力も伴ってくる、ということを学びました。この留学での学びを今後の課題で活かせるよう、一層の努力をしてまいります。ご支援くださった育英会の皆さまに、心よりお礼申し上げます。

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