奨学生の声

Voice

2018年度 海外留学支援奨学生 久保田太河さん

インペリアル・カレッジ・ロンドン(Imperial College London,MSc Strategic Marketing)/イギリス
ロンドンの生活
久保田さん

左端:本人

ロンドンへの留学を志した背景には国際化の進む日本のマーケットが潜在的に行き着く先のひとつとして、人種のるつぼとされる都市で生活をしたいという考えがありました。実際、ロンドンでは世界中からやってきた人達が同居しており国際都市の名にふさわしいです。一方でるつぼという表現から考えるように垣根なく混ざり合っているというよりは、独立した小さなコミュニティが複数存在しているという印象を受けました。コミュニティ間では過度な干渉がなく、それぞれ自由に生活をしています。日本では外国人に対してみんなで仲良くしようというような教育がなされますが、現実的に国際化された都市ではむしろ付かず離れずのバランスがあるのだなと発見しました。

ロンドンにいる人々は利他的行動を楽しんで行っていることも印象的でした。他人のためにドアを開けて待っていることや友人同士でもドアを開けて先に通らせることが徹底しています。休日にボランティア活動をすることはかっこいいこととされ気軽に参加する機会も豊富です。さらに環境意識や動物の権利保護のためのベジタリアニズムも広く受け入れられており、市街地ではほぼ全てのレストランでベジタリアン専用のメニューか通常のメニューにベジタリアンの表記が加えられています。心理学的にも利他的行動はその人自身の幸福度に寄与することが支持されていますが、ヨーロッパの人々はこれを特に享受しているように思えます。日本では利他的行動をしても周りから揶揄されることがありますが、ロンドンから見習うべき点と言えるでしょう。

一方、ロンドンで生活してみてわかる日本の素晴らしい点もたくさんあります。例えば住宅事情は日本に軍配があがるでしょう。ロンドンでは建物同士が近接し合いそれぞれのオーナーが異なる場合が多いという理由から一度建てた建物は老朽化が進んでもなお取り壊されず、どうにか維持しながら使われています。これはヨーロッパらしい景観という意味でも素晴らしいことですが、老朽化したインフラ設備は日々の生活を不便にしますし、背の低い建物は土地面積あたりの居住人数を制限するので自然と家賃が上がるようになっています。加えてロンドンは人口増加傾向にある都市であり、住宅の供給が一定であるので価格がさらに高騰しています。東京のタワーマンション乱立にも問題はあるのだろうと思いますが、一消費者目線ではやはり建設技術に支えられた日本の住宅事情は素晴らしいものだと思えます。ロンドンから見習う点、日本の方が優れており海外に輸出しうる技術などたくさんの発見がありました。

論文・インターンシップ
久保田さん

真ん中:本人

修士課程の最後は論文作成とインターンシップにより座学で学んだ知識を体系的に身につけていきました。

論文ではスタートアップ企業で用いられるグロース・マーケティングの特徴とその大企業への応用についてまとめました。グロース・マーケティングはスタートアップが直面する資源の枯渇や不確実性の問題に対応するように発展してきたマーケティング手法であり、マーケターがより広域な役割を担うことや効率的な資源の活用を行うといった特徴があります。最近は消費者ニーズの細分化により大企業でもスタートアップ同様の困難に直面する傾向にあるため、グロース・マーケティングはもはやスタートアップだけのベストプラクティスではないと言えます。実際、スタートアップが発売前の需要検証のために利用していたクラウドファンディングを伝統的な大企業が利用し成功を収めた事例も存在し、マーケティング分野の垣根はなくなってきていると言えます。

インターンシップでは投資銀行にてM&Aアドバイザリーに従事しました。M&Aアドバイザリーでは買収後の経営戦略策定も提案の一部に含むため、マーケティングに関する提案も行えるということで自分の興味と合致していると考えていました。しかしインターンシップで経験できる業務はそうした上流工程ではなく具体的な作業のパートが多く、企業のリサーチやスライドの作成がメインでした。希望していた業務内容とは違いましたが、やはりここでもマーケティングの知識が活かされました。リサーチやスライドの作成はM&Aアドバイザリーの提案資料であり、提案プレゼンをセールスと捉えるとプレゼンの作成はマーケティングの一環だと解釈できます。この考えにおいては私の担当した手元の作業も単純な繰り返し作業ではなく、合理的な顧客に対して金銭的なコストの大きい商品を売るマーケティングとして工夫のしがいがある役割となりました。消費者行動論の精緻化見込みモデルによるとコストが大きい消費を行う場合、消費者はより合理的な意思決定プロセスを利用します。すなわり、金銭コストの大きいM&Aアドバイザリーにおいては数値を用いた合理的な説得を行うことで顧客が意思決定をしやすくなります。このようにマーケティングの理論を学んだことで一見マーケティングに直接関係のない仕事にも知識を応用し工夫できるようになりました。

この一年間の留学を通じて人間的にも知識の面でも大きく成長できたと思っております。このような貴重な体験を実現させてくれましたご援助に心より感謝致しております。

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